バングラデシュの造船人材のスキルの高さについて

 

はじめに

近年、アジア諸国の中でも急速に存在感を高めているのがバングラデシュの造船産業です。特に、低コストでありながら高品質な船舶の建造・修理を実現する同国の人材に、世界各国の造船関連企業が注目しています。本稿では、バングラデシュの造船人材がなぜ高いスキルを有しているのか、その背景と強み、今後の可能性について詳しく述べてまいります。

 

1節:バングラデシュにおける造船産業の発展

バングラデシュの造船産業は、長らく内需向けの小型船や輸送船の建造が中心でしたが、2000年代以降、欧州・中東諸国への輸出需要が拡大し、国際競争力を獲得しつつあります。チャトグラム(チッタゴン)やナラヤンゴンジ、モングラといった港湾都市を中心に、20を超える造船所が稼働しており、その多くが欧州船級協会(DNVやBureau Veritas等)の認証を取得しています。

 

2節:豊富な労働人口と実践的な教育体制

バングラデシュは1億7,000万人を超える人口を有し、その約6割が35歳未満という若年層中心の国です。この豊富な労働人口を背景に、産業技能訓練センター(TTC)や技術大学、民間の職業訓練学校が全国に広がり、溶接、配管、機械加工、板金、電装といった造船に不可欠な技能教育が行われています。

 

3節:造船人材の技術的な特長

バングラデシュの溶接工は、国際的な認証(AWS、ISO、Lloyd's Registerなど)を取得している人材が多く、精密なTIG溶接・MIG溶接をはじめ、厚板や高張力鋼への加工にも高い対応力を誇ります。

 

4節:海外市場での活躍

バングラデシュ人の造船技術者は、すでに中東やマレーシア、シンガポールなどの造船所で広く採用されており、信頼を獲得しています。特に、湾岸諸国においては、インド・パキスタン・フィリピン出身者と並び、バングラデシュ人材は主要な構成員となっています。

 

5節:低コストと高生産性の両立

バングラデシュ人材の大きな強みは、コストパフォーマンスの高さです。日本や韓国の造船労働者に比べて賃金は3分の1以下であるにもかかわらず、熟練者の作業品質は非常に高く、生産効率も良好です。

 

6節:安全意識と職業倫理の高さ

現地では、ILOやJICAなどの支援のもと、安全衛生教育や職業倫理教育が盛んに行われており、安全具の着用や作業前点検、報告連絡相談の徹底など、基本的な現場マナーが浸透しています。

 

7節:国際資格と技術標準への適応

バングラデシュの若年層の中には、職業訓練校在学中に国際資格の取得を目指す者も多く、卒業後すぐに即戦力として採用できる層が形成されています。

 

8節:日系企業との協力実績

近年では、三井E&SやJMUなどがバングラデシュ企業との業務提携を進めており、図面の外注・艤装作業の一部委託などが行われています。

 

9節:課題と今後の展望

もちろん、すべての人材が即戦力というわけではなく、初期研修や日本語能力の強化が必要な場合もあります。しかし、継続的な教育支援と現場指導により、数年で中核人材へと成長する例が多く、人的投資に見合う効果を得やすい環境です。

 

おわりに

 

バングラデシュの造船人材は、豊富な労働人口と国際基準に対応した技能、そして高い意欲と職業倫理を兼ね備えた、極めて競争力の高い存在です。低コストと高品質の両立が可能であり、今後の国際造船市場においてますます重要な役割を果たしていくと考えられます。