バングラデシュの国としての実習生適正

~なぜバングラデシュが技能実習派遣国として適しているのか~

 

はじめに

日本の深刻な労働力不足を補うために活用されている技能実習制度において、送り出し国の選定は極めて重要です。送り出し国が持つ国民性、地理的条件、政治状況、経済事情などが、実習制度の円滑な運用や人材確保の安定性を大きく左右するからです。

その中で、近年急速に注目を集めているのが南アジアのバングラデシュです。単に人口が多いという理由だけではなく、地理的条件や文化的背景、経済事情、政治的意向など、複合的な要因が、バングラデシュを技能実習の送り出し国として非常に有望な存在にしています。

本稿では、バングラデシュが技能実習派遣国として適している理由を、以下の8つのポイントを中心に詳述します。


1.アジア4位、1億8000万人の巨大国であること

バングラデシュは、2025年時点で人口がおよそ18000万人に達し、アジアでは中国、インド、インドネシアに次いで4位の人口規模を誇ります。これは世界全体でも上位に入る数字であり、バングラデシュの最大の強みともいえます。

この膨大な人口のうち、特に注目すべきは若年層の比率です。国民の35%以上が15歳から34歳という若年層であり、この層こそが技能実習制度における主要な候補者層です。人口ボーナス期の只中にあるバングラデシュは、今後数十年は安定した労働力供給が可能と考えられます。

また、多産傾向が依然として強く、将来的にも若年層の人口は大きく減る見込みがなく、長期的に送り出し国として安定的な人材供給を期待できます。少子高齢化に直面する日本にとって、バングラデシュのこうした人口構造は極めて魅力的です。


2.国が狭く、全土が陸続きで人口密度が高いため集客をしやすいこと

バングラデシュの国土面積は約147,570平方キロメートルで、日本の北海道と東北地方を合わせた程度の広さに過ぎません。しかし、その狭い国土に18000万人が集中しているため、人口密度は世界でも突出しています。2025年時点で1平方キロメートルあたり約1,200人を超える人口密度は、事実上世界一とも言われています。

この高い人口密度は、送り出し事業者にとって大きなメリットです。技能実習候補者を集める際、地方へ分散した人口を探し回る必要が少なく、比較的狭い範囲で大規模な募集活動を行うことが可能だからです。たとえば、説明会や合同面接会を一都市で開催すれば、多くの候補者が短時間で集まれるという効率の良さは、他国に比べて圧倒的な利点です。

さらに全土が陸続きであるため、輸送コストも比較的低く、地方在住者でも首都ダッカに短時間で移動できます。これが技能実習事業の実務運用において、大きな機動力を生んでいるのです。


3.首都ダッカにすべての施設も学校も学生も集まっているため面接や手続をしやすいこと

バングラデシュの国の構造上、経済、行政、教育のほとんどが首都ダッカに集中しています。政府機関、送り出し機関、技能訓練学校、日本語学校、職業紹介所など、技能実習制度に関わるほぼ全てのインフラがダッカに集積しているのが現状です。

多くの若者が地方からダッカへ進学や就職のために移住しており、日本語学校の多くもダッカ市内に立地しています。このため、送り出し機関にとっては候補者の募集、面接、選抜、教育、書類手続きが全て一都市で完結する利便性があります。

たとえば、日本から企業が面接団を派遣する場合も、1都市に集まった候補者と一度に面接を行うことができ、時間とコストを大幅に削減できます。また、教育機関と送り出し機関が密に連携しやすいため、実習生の質の均一化やフォローアップもしやすいという強みがあります。


4.インドより手前(東)にあり直行では7時間以内で渡航できること

地理的にもバングラデシュは日本との距離が近いのが大きな利点です。首都ダッカと日本(成田、関空、中部)を結ぶ直行便は増加傾向にあり、フライト時間は約67時間程度です。これは東南アジア諸国とほぼ同じ所要時間であり、南アジアでは最短クラスに入ります。

また、インドなど他の南アジア諸国と比較しても、バングラデシュは東側に位置するため日本への移動距離が短く、航空運賃も相対的に抑えられます。加えて、ダッカ空港は南アジアの交通ハブ化が進んでおり、日本への輸送ルートとしても利便性が高まっています。

企業側の視点からすれば、現地訪問や実習生の緊急帰国対応などで移動時間が短いことは大きな安心材料です。万一のトラブル時にも迅速に現地入りできるため、リスク管理の面でも優位性があります。


5.アジア文化が残る最後の国であること

近年のグローバル化に伴い、アジア各国では西洋化が進み、伝統的な文化が急速に失われつつあります。例えば、フィリピンやベトナムでは、若者層が西欧型の価値観を強く持つようになり、従来の「忍耐」「協調性」「上下関係尊重」といったアジア的価値観が弱まりつつあるという指摘があります。

しかしバングラデシュは、イスラム文化の強い影響もあり、今なお伝統的なアジアの価値観が色濃く残っています。家族や共同体を尊重する精神、目上を敬う態度、集団の中で調和を保つ行動は、日本の企業文化とも親和性が高い資質です。

技能実習制度においては、チームでの作業、先輩後輩の関係、規律順守などが非常に重視されます。こうしたアジア的価値観を維持するバングラデシュの若者は、日本社会での適応力が非常に高く、実際に受け入れ企業からも「礼儀正しい」「協調性がある」と高く評価されています。


6.最低賃金がアジア最低水準であり、海外で長期に働きたい若者が多いこと

バングラデシュの2025年時点の最低賃金は月額約10,000バングラデシュタカ、日本円に換算すると約1万円程度であり、アジアの中でも最も低い水準です。この低賃金が、若者たちに強い海外志向を生んでいます。

国内で働いても十分な生活が送れない現状において、日本での月収は現地の5倍から10倍に及ぶことも珍しくありません。この大きな経済格差は、長期の海外就労へのモチベーションを生み出しています。

例えば、家族のために稼ぎたいという思いは非常に強く、多くの若者が自ら進んで日本語を学び、技能を習得しようと努力しています。バングラデシュから日本への技能実習生数が近年急増している背景には、こうした経済的理由が強く影響しているといえます。


7.政府が出稼ぎを奨励しており、様々な積極的支援をしていること

バングラデシュ政府は、海外就労による外貨収入を国家経済の重要な柱として位置付けています。2024年度には、海外からの送金額が240億米ドルを超え、GDP10%近くを占めるまでになっています。政府はこの収入源をさらに強化するため、海外就労を積極的に奨励しています。

具体的には以下のような政策を展開しています:

  • 日本向け技能実習制度に対応した日本語教育プログラムの整備
  • 日本語教師の育成支援
  • 出国前講習の義務化と質の向上
  • 送り出し機関の認定制度強化
  • 帰国後の就職支援プログラム

また、民間の送り出し機関とも連携し、技能実習生候補者の人材プールを構築しています。この政府の強力なバックアップがあることで、送り出し業務が非常にスムーズに運営されており、制度運用上の信頼性が高いといえます。


8.男性文化であり男性が女性の分まで2倍働かなければならないという労働価値観であること

バングラデシュ社会は、イスラム文化の影響を強く受けた男性優位の社会構造を持っています。社会の中で女性の外での就労はまだ制限される部分が多く、家族を経済的に支える責任が男性に強く求められます。

この背景から、バングラデシュの男性は「自分が家族を支える」という責任感が非常に強く、労働意欲も高いです。特に、家族や親せき、地域の人々の生活が自分の稼ぎにかかっているという意識が、仕事への真摯な取り組みを支えています。

実際、技能実習生として日本に渡航したバングラデシュ人男性の多くが、長時間労働にも耐え、真面目に業務を遂行する姿勢が日本企業から高く評価されています。彼らにとって「働くこと」は単なる生計手段ではなく、家族や共同体を守る誇りでもあるのです。


まとめ

以上のように、バングラデシュが技能実習派遣国として適している理由は、単に人材が豊富というだけではありません。人口規模、地理的利便性、都市集中型の社会構造、アジア的文化価値、低賃金による海外志向、政府の積極支援、そして男性が家族を支えるという強い責任感など、複合的な要素が絡み合い、日本の技能実習制度における送り出し国としての優位性を形作っています。

 

こうした背景を持つバングラデシュは、今後も日本にとって極めて重要な人材供給国であり続けると考えられます。