バングラデシュにおける建設人材養成学校での主な訓練職種と訓練プログラム

 

1. はじめに

バングラデシュは、急速な人口増加と経済発展に伴い、国内外において建設業に従事する労働力の需要が高まっています。とりわけ中東諸国やマレーシア、日本などへの海外出稼ぎが一般化する中、建設分野での技能を身に付けた人材の育成は国家的な優先事項となっています。そのため、政府・民間・国際協力機関が連携して建設人材養成学校の整備と訓練プログラムの強化を進めてきました。

本稿では、バングラデシュにおける主要な建設人材育成校の特徴、訓練対象職種、プログラム内容、実技カリキュラム、安全教育、国際就労を意識した教育体制などについて、体系的に解説します。


 

2. 建設人材養成学校の概要

バングラデシュには、政府運営の職業訓練センター(TTC: Technical Training Center)や、ダフォディル大学グループをはじめとする私立教育機関、さらにはNGOや国際機関の支援を受けた訓練校など、建設分野に特化した教育機関が全国に数百校存在しています。これらの学校では、3か月から1年間の短期・中期課程が設置されており、理論と実技を組み合わせた実践的訓練が行われています。

特に日本や中東向けの出稼ぎを想定したプログラムでは、言語教育(日本語・アラビア語)やビジネスマナー、安全衛生、異文化理解などのカリキュラムも盛り込まれています。


 

3. 主な訓練職種

以下は、バングラデシュの建設訓練校で提供されている代表的な訓練職種です。

3.1 鉄筋工(Rebar Worker

鉄筋の組立・加工・結束技術を学び、図面をもとにした配筋、カット、ベンダー操作、結束作業の実技訓練が中心です。耐震補強や型枠との連携も訓練対象です。

3.2 型枠工(Formwork Carpenter

型枠の設置・解体技術を学ぶコースで、木製・金属型枠の扱い方、セメント注入の工程、クランプ・支柱の使用法、安全基準の遵守を学びます。

3.3 大工(General Carpenter

住宅・商業施設の建築に関わる木工技術全般(壁、床、屋根の施工)を習得。墨出し、電動工具の安全な使用、寸法測定などが含まれます。

3.4 配管工(Plumber

上下水道設備、給湯配管、衛生器具の設置等に関する知識と技能を訓練。青写真の理解、パイプの切断・接続、漏れ検査などを中心に実技が構成されます。

3.5 左官(Plasterer

コンクリートやモルタルの塗り、壁の仕上げ、タイル貼りなど、内外装の仕上げ工事を中心に、手作業と機械作業の両方を訓練します。

3.6 溶接工(Welder

アーク溶接、ガス溶接、TIG溶接など多様な技術が含まれ、鋼材の加工、継ぎ手の溶接、角度調整、耐熱管理、安全教育が重点的に行われます。

3.7 足場作業員(Scaffolder

高所作業のための足場組立・解体技術、安全帯の使用、水平・垂直保持の技術、墜落防止対策、重量物の取り扱い等を学びます。


 

4. 訓練プログラムの内容

訓練プログラムは通常、座学(理論)と実技を交互に実施し、1週間単位でテーマごとに内容が構成されています。例えば型枠工コースでは:

  • 1週:建設概論、安全衛生、用語の理解
  • 2週:型枠の部材と構造
  • 3週:工具の使い方、墨出し
  • 46週:設置、解体、実技演習
  • 7週:総合実技試験と評価

各職種共通で、最低限の建設現場マナーや指示の受け方、グループ作業の流れ、日本向け訓練では5SKY(危険予知)活動も導入されます。


 

5. 特徴的な教育制度と国際就労への備え

 

5.1 日本語教育との連携

特に日本向け実習候補者には、日本語教育(N5N3レベル)を並行して実施する訓練校も多く存在し、Daffodil Japan IT などでは実習現場で必要な語彙・会話表現、安全用語などを重点的に指導しています。

 

5.2 異文化・生活適応訓練

文化的な違いによるトラブルを避けるため、日本の生活マナー、時間厳守、あいさつ、ゴミ分別、集合住宅でのマナーなどが訓練項目に組み込まれており、模擬生活寮を使った演習も行われています。

 

5.3 模擬現場訓練

一部の先進的な訓練校では、実際の現場と同様の構造物を作る模擬現場を設置しており、実践的かつ反復的な訓練が可能となっています。

 

5.4 修了認定と技能評価

訓練終了時には技能評価試験(実技・筆記)が実施され、修了証が発行されます。優秀な者は海外求人への推薦も行われ、送り出し機関と連携してマッチングされます。


 

6. おわりに

バングラデシュにおける建設人材育成の仕組みは、国内外の需要を見据えた実践的な教育に特化しており、多様な職種に対応した技能訓練と国際的な就労を見据えた教育内容が整備されています。今後、より多くの若者がこうした教育を受けることで、日本をはじめとする諸外国の建設業界において即戦力となる人材がさらに増えていくことが期待されます。