バングラデシュの建設環境と

建設人材のスキルが高い理由

 

 

はじめに

近年、日本の建設業界では高齢化と人材不足が深刻な課題となっており、外国人建設人材の導入が急務となっています。その中で、南アジアの国バングラデシュからの人材に注目が集まっています。従来、外国人労働者といえば東南アジア出身者が中心でしたが、バングラデシュは急速に建設分野での評価を高めている有望な供給国です。

本稿では、まずバングラデシュにおける建設業の現状と社会的背景を整理した上で、同国出身の建設人材のスキルがなぜ高いと評価されているのか、その理由を多角的に論じていきます。


 

1. バングラデシュの建設産業の拡大と多様性

 

1-1. 国家規模でのインフラ開発ラッシュ

バングラデシュは、過去20年で急速な経済成長を遂げてきました。その成長を牽引するのが、国内各地で進められている国家的インフラ開発プロジェクトです。たとえば以下のような事業があります:

  • パドマ多目的橋(全長6.1km)

  • ダッカ都市高速道路・メトロ建設

  • 発電所、港湾、空港の近代化事業

  • 経済特区(EZ)における開発案件

これらの大型プロジェクトには、**日本、中国、韓国、インド、トルコなどの海外企業とのJV(共同企業体)**も多数関与しており、現地作業員は多国籍の現場での実務経験を積むことになります。

 

1-2. 都市部と地方部における建設需要の二極化

都市部(特にダッカ、チッタゴン)では、集合住宅・商業施設・オフィスビルの建設が急増しており、高層建築の基礎・構造・仕上げ技術が磨かれています。一方、農村部では道路・水路・橋梁・住宅といった公共インフラの建設が中心で、多能工的なスキルが求められる環境があります。これにより、バングラデシュ人材は現場対応力の高い「汎用型スキル」を獲得しやすい傾向にあります。


 

2. 中東諸国への建設人材の出稼ぎ経験

 

2-1. 長年の海外建設労働の蓄積

バングラデシュは1970年代から中東諸国(サウジアラビア、UAE、クウェート、カタール、オマーン等)への建設出稼ぎを積極的に行っており、毎年数十万人単位で送り出しています。これらの国々ではビル建設、道路工事、トンネル、地下鉄、配管・配線工事など多様なプロジェクトに従事しており、高度かつ実践的な建設技術を日常的に経験している人材が多数存在します。

 

2-2. 外国人上司・多国籍現場との協働経験

中東諸国では外国人上司や多国籍チームと働く機会が多く、指示理解力、現場対応、言語(英語)での報連相といった国際的な建設現場での基礎スキルも自然と身につけられています。これは、日本の現場でも適応しやすい背景要素です。


 

3. 建設訓練学校と職業訓練体制の充実

 

3-1. 技能開発庁(Bureau of Manpower, Employment and Training)主導の訓練制度

バングラデシュ政府は労働力輸出を国家戦略の一環として位置づけており、BMET(技能開発庁)傘下に100以上の職業訓練センター(TTC)を設置しています。これらの訓練施設では以下のようなコースが提供されています:

  • 鉄筋工、型枠大工、左官、塗装、電気設備

  • 建築測量、図面読み取り、足場組立

  • 重機操作、建設安全管理

これらはすべて修了証付きの実践型プログラムであり、修了生は技能試験に合格し、送り出し資格を得て海外就業へと進みます。

 

3-2. 日本企業との連携した訓練事例の増加

近年では、JICAや日本の建設企業と連携した日本向け建設訓練コースも整備されつつあり、日本語教育+建設技能のセット型カリキュラムが導入されています。これにより、日本独自の安全基準や作業方式に対する事前知識も身につけた人材が増加しています。


 

4. バングラデシュ人材の職業観・倫理観

 

4-1.「手に職」志向と技能への誇り

バングラデシュでは高学歴層以外にも、「技能職での成功」を人生の選択肢として重視する文化があります。特に建設・製造分野においては、技能を身につけて海外で活躍することが尊敬されるキャリアモデルとして認識されています。

そのため、建設職に対しても自信と誇りをもって取り組む労働者が多く、仕事への責任感や継続意欲も強い傾向があります。

 

4-2. 謙虚さと協調性の高さ

イスラム文化の中で育ったバングラデシュ人は、礼儀正しく、年長者や上司に対する敬意を重んじます。建設現場のように上下関係や協調行動が求められる場でも、日本の職場文化に適応しやすい人材が多いことが企業評価に繋がっています。


 

5. バングラデシュにおける送り出し体制と教育インフラの進化

 

5-1. Daffodil Japan日本語学校・GRAバングラデシュの事例

バングラデシュ最大の私立大学グループであるDaffodil International Universityを母体とする教育機関では、建設技能訓練と日本語教育をセットで提供するモデルが確立されています。たとえば:

  • Daffodil Japan 日本語学校では、実技訓練(鉄筋、型枠、測量)と日本語会話を連携させた授業を展開

  • GRAバングラデシュでは、日本企業面接の前に「日本語面接評価基準」「現場対応力テスト」を実施

  • モチベーションの高い人材を選抜し、実習生・特定技能人材として企業へ提案

このように、日本企業のニーズに沿った人材育成が可能な体制が整っていることは、建設人材のスキル水準を維持・向上させる要因となっています。

 

5-2. 技能実習・特定技能制度への対応力

送り出し機関側は、技能実習制度や特定技能制度に精通しており、必要な職種別訓練、試験対策、日本語教育、安全教育などを体系的に実施することで、日本企業の負担を軽減しています。また、来日前に面接・選抜・教育が完了しているため、即戦力人材を安定的に確保できる点でも信頼性が高いと評価されています。


 

まとめ:実務経験・国際適応力・教育体制の三拍子

バングラデシュ人材の建設スキルが高く評価される背景には、以下の要素が有機的に連携していることが挙げられます:

  1. インフラ開発による豊富な現場経験

  2. 中東諸国での出稼ぎによる国際建設経験

  3. 職業訓練センターによる技術力の底上げ

  4. 送り出し機関による教育・評価制度の高度化

  5. 労働倫理、協調性、向上心の強さ

 

今後、日本の建設業界において人材確保の鍵を握る存在となるのは、単なる“労働力”ではなく、こうした背景を持つ“技能力と人間性を兼ね備えた実務人材”です。バングラデシュは、その有力な供給国として、今後ますます注目されるとみられます