技能実習制度における費用調達方法の比較

はじめに

技能実習制度は、発展途上国の人材育成を目的としつつ、日本の労働力不足を補う制度として重要な役割を担ってきました。しかし実際には、送り出し国側での送出費用が非常に高額となるケースも多く、技能実習生にとっては渡航前から大きな経済的負担となっています。そのため、費用の調達方法や調達額は、送り出し国ごとの社会構造や制度、産業事情、金融システムの違いによって大きく異なります。

本稿では、ベトナム、インドネシア、バングラデシュの三か国を取り上げ、それぞれの技能実習生がどのように費用を調達しているかを比較し、背景事情や問題点、最近の変化も含めて解説いたします。


1.ベトナムにおける費用調達

1-1 高額な渡航費用の現状

ベトナムは、日本の技能実習生送り出し国として、長年トップクラスの人数を誇っています。しかし同国では、技能実習にかかる費用が非常に高いことで知られており、総額で50万円から80万円、時には100万円を超える場合すらあります。

この費用には以下が含まれます。

  • 日本語学習費用
  • 宿泊・生活費(研修期間中)
  • 書類取得・翻訳費用
  • 渡航費(航空券)
  • 診断書や健康診断
  • 送り出し機関への手数料
  • 不透明な「斡旋料」や「謝礼」

近年は政府の取り締まり強化により、名目上の費用は下がってきたものの、非公式な支払いが根強く残っているとも言われます。

1-2 調達方法の実態

ベトナムでは、多くの技能実習候補者が家族や親戚からの借入で渡航費用を工面します。しかし、それでも不足する場合には、以下のような方法を取るケースが多いです。

  • 農地や家屋の担保融資
    地方農村部では、家族が保有する農地や住宅を担保に銀行や信用組合から融資を受けることが一般的です。
  • 民間金融機関の高金利ローン
    都市部を中心に、非正規の金融業者からの借り入れもあります。年利は2030%に達することもあり、返済負担が重いです。
  • 村単位での共同出資
    村やコミュニティ単位でお金を出し合い、若者の渡航を支援する例もあります。将来帰国後の送金で返済する仕組みです。
  • ブローカーからの立替
    悪質な場合、送り出し機関や仲介者が立替えを行い、実習生の給与から天引きするケースも存在します。

1-3 政府の取り組みと課題

ベトナム政府は過剰な費用負担を抑えるため、送り出し費用の上限設定を行い、日本側と連携して不正ブローカー排除を進めています。しかし現場レベルでは、依然として賄賂や非公式な手数料が存在するとも言われ、根絶には至っていません。


2.インドネシアにおける費用調達

2-1 渡航費用の特徴

インドネシアもベトナムに次いで大きな送り出し国ですが、ベトナムほど高額な渡航費用は一般的ではありません。平均して20万円~40万円程度が相場とされます。これは政府の規制が比較的強いこと、また労働者送出に関する制度が厳格に管理されているためです。

しかし、それでも費用の内訳には以下のようなものがあります。

  • 日本語教育費用
  • 生活費(研修期間中)
  • 渡航費
  • 健康診断・ビザ手数料
  • 書類手続き費用
  • 送り出し機関への手数料

インドネシアでは、送出しに関する政府ライセンスを持つ送り出し機関(PJTKI)が厳格に管理されており、費用の透明性向上が進んでいます。

2-2 費用調達の方法

インドネシアにおける費用調達方法は以下の通りです。

  • 親族からの借入
    家族単位で資金を工面するケースが最も多いです。イスラム文化の影響もあり、利息を伴う借金を避ける傾向が強いです。
  • 農産物や家畜の売却
    農村部では家畜や農産物を売却して資金を作る例も多いです。
  • 政府系金融機関からのローン
    インドネシア政府はBNI銀行やBRI銀行などを通じ、技能実習向けの低利ローンを提供しています。ただし審査が厳しく、担保を求められる場合があります。
  • 送り出し機関の立替制度
    一部の送り出し機関は費用を立替え、日本での給与から分割天引きする制度を導入しています。ベトナムほどトラブルは多くありませんが、返済の遅延や違約金問題が発生することもあります。

2-3 宗教と金融慣行

インドネシアでは、イスラム教徒が多数派であり、利息を忌避する「イスラム金融」の思想が強いです。そのため、無利子ローンや家族内での資金支援が大きな役割を果たしています。銀行融資も「シャリアバンク」の商品が選ばれるケースが多いです。


3.バングラデシュにおける費用調達

3-1 渡航費用の現状

バングラデシュは、日本における技能実習生送り出し国としては比較的新しい国ですが、近年急速に人数を増やしています。同国の渡航費用は、インドネシアよりやや高く、ベトナムよりは低いという位置づけです。概ね30万円~50万円程度が目安とされています。

内訳は以下のようです。

  • 日本語教育費
  • 宿泊・生活費(研修中)
  • 書類取得費
  • 健康診断
  • 渡航費
  • 送り出し機関手数料
  • ビザ申請料

バングラデシュは教育水準に格差が大きく、日本語学習費が高騰することもあり、総額が上振れしがちです。

3-2 調達方法の実態

バングラデシュでの費用調達は、以下のような特徴があります。

  • 親族からの借入
    最も多いのが親戚からの借入です。親戚一同でお金を出し合う「コミュニティ文化」が根強い国です。
  • 海外出稼ぎ者からの送金
    バングラデシュは出稼ぎ大国で、中東などに働きに行った家族が送金で支援するケースが非常に多いです。この「リマンス(送金)」が技能実習渡航資金の大きな柱となっています。
  • 金融機関からのローン
    バングラデシュ銀行は、日本向け技能実習生向けローン制度を打ち出しています。しかし高い金利(年率1012%程度)が障壁です。
  • NGOやマイクロファイナンス
    グラミン銀行などのマイクロファイナンスを利用するケースも増えています。無担保で小口融資を受けられるものの、返済期間が短いため負担が大きいこともあります。
  • 送り出し機関の立替
    一部の送り出し機関が立替えを実施し、日本での給与から分割返済させる仕組みがありますが、金利や手数料が不透明な場合があり注意が必要です。

3-3 特有の事情

バングラデシュの大きな特徴は、海外送金(リマンス)の存在です。バングラデシュ中央銀行によれば、2022年の海外からの送金額は220億ドルを超え、GDPの大きな部分を占めています。このため、技能実習渡航資金も中東で働く兄や父、叔父からの支援で賄われる例が非常に多いです。


4.三か国の比較と課題

4-1 渡航費用の水準

国名

渡航費用の目安

ベトナム

50100万円

インドネシア

2040万円

バングラデシュ

3045万円

ベトナムが群を抜いて高額であり、バングラデシュは中間、インドネシアが比較的低額です。

4-2 調達方法の特徴

国名

主な調達方法

特徴

ベトナム

家族・親戚借入、民間ローン、仲介立替

非公式費用が根強い、高金利融資も

インドネシア

家族借入、政府系ローン、送り出し立替

イスラム金融が影響、無利子志向

バングラデシュ

親戚借入、海外送金、NGOローン

リマンス活用、マイクロファイナンス普及

4-3 問題点

  • 過剰な費用負担
    ベトナムの高額費用は社会問題化しており、借金返済のために過酷な労働を強いられる実習生もいます。
  • 不透明な費用構造
    三か国とも送り出し機関やブローカーによる不透明な手数料や賄賂が問題視されています。
  • 返済負担
    高利の民間ローンを利用した場合、実習期間の収入の大半が借金返済に消える恐れがあります。
  • 法規制の浸透不足
    各国とも制度改革は進んでいますが、地方や農村部では規制が十分浸透しておらず、古い慣行が残っています。

結論

技能実習制度における費用調達は、送り出し国ごとに大きな違いがあります。ベトナムは非常に高額な費用負担が問題となり、インドネシアは宗教的背景から無利子志向が強く、バングラデシュは海外送金を活用する独自の事情を抱えています。三か国に共通する課題は、費用の不透明さと過剰な負担です。各国政府と日本側双方のさらなる制度整備と監視強化が必要と考えられます。