バングラデシュの人口分布と人口増加の背景

 

1.総人口の概況

バングラデシュは、南アジアに位置し、総面積147,570平方キロメートルという限られた国土に、2025年時点でおよそ17,000万人を超える人々が暮らしている国です。面積の割に非常に人口が多いため、世界でも有数の人口密度を誇っており、1平方キロメートルあたりの人口は1,100人以上ともいわれています。これは農業国であるにもかかわらず、都市部の急速な人口集中や農村部の高い出生率が重なった結果です。

国連の推計によれば、バングラデシュの人口は今後もしばらく増加傾向を続ける見通しが示されています。過去50年間で人口はほぼ3倍に増加しており、1971年の独立直後の人口はおよそ7,500万人程度だったことを考えると、人口増加の勢いの大きさが際立ちます。

2.人口分布の特徴

(1) 地理的分布

バングラデシュの人口分布にはいくつか顕著な特徴があります。まず、人口の大部分が国土中央部および南部の低地平野に集中しています。これは、豊かな水資源と肥沃な沖積土壌に恵まれたガンジス川、ブラフマプトラ川、メグナ川流域に位置しているためです。これらの地域は古来より農業生産が盛んで、農村人口が多い一方、近年は都市化の影響で都市部への人口集中が進んでいます。

一方、東部のチッタゴン丘陵地帯など山間部は人口が比較的少なく、先住民族が多く居住する地域となっています。標高が高く傾斜も急なため農業には不向きで、交通インフラも限られていることから人口密度は低く抑えられています。

(2) 都市と農村の分布

バングラデシュは依然として農村人口の比率が高い国ですが、急速な都市化が進んでいることも事実です。2025年現在、全人口のおよそ40%が都市部に居住していると推計されており、都市化率は年々上昇しています。

最も人口が集中しているのが首都ダッカです。都市圏人口は2,000万人を超えており、世界でも有数の人口密集都市となっています。ダッカは政治・経済・文化の中心であり、地方からの人口流入が絶えない状況です。貧困層を含む多くの人々が仕事を求めて都市部へ移住しているため、スラムの形成が深刻な社会問題にもなっています。

ほかにも、チッタゴン、クルナ、ラジシャヒ、シレットなどの主要都市が地域ごとの中心都市として存在し、それぞれが独自の経済圏を形成しています。特にチッタゴンは港湾都市であり、国際貿易の拠点としての役割を持つため、人口規模も大きくなっています。

(3) 地域間の人口格差

人口分布に関しては、地域間格差も顕著です。中部や南西部の低地デルタ地帯は人口が非常に密集していますが、北西部のバリンド高地や東部の丘陵地帯は比較的人口密度が低い状況にあります。農業生産性や産業集積度、交通インフラの整備状況が、人口分布に大きな影響を及ぼしています。

3.人口増加の背景

バングラデシュの人口が増加し続けている背景には、いくつかの社会的・経済的・文化的要因が複雑に絡み合っています。主な要因を以下に詳述します。

(1) 高い出生率

人口増加の最大の要因は、依然として高い出生率にあります。バングラデシュは過去数十年で出生率が大幅に低下したとはいえ、依然として人口置換水準(2.1人)をわずかに上回る水準に留まっています。1970年代には女性一人当たりの合計特殊出生率(TFR)は約6.3人でしたが、近年では2.2人程度まで減少しました。しかし、それでも人口の絶対数が大きいため、出生数は高止まりしています。

家族観や子どもに対する価値観も影響しています。農村部では、子どもは労働力であり、老後の保障という考え方が根強く、家族計画が進みにくい傾向があります。都市部では出生率が低下しているものの、全体を押し下げるには至っていません。

(2) 若い人口構造

バングラデシュは非常に若い人口構造を持つ国です。人口の約3割以上が14歳以下であり、若年層の多さがそのまま高い出生数につながっています。さらに、結婚年齢が比較的若いことも要因の一つです。女性の平均初婚年齢は約1820歳であり、若年婚が多いため出生期間も長くなります。

このような若年層の多さは、将来的にも一定期間は人口増加を維持させる「人口ボーナス期」の一面を持っていますが、教育、雇用、医療など多方面への負担も大きくなっています。

(3) 平均寿命の延び

人口増加には、医療技術や公衆衛生の進歩による平均寿命の延びも大きく寄与しています。独立当初は平均寿命が約45歳程度でしたが、現在では72歳を超えるまでに向上しました。乳幼児死亡率も大幅に減少し、出生した子どもが成人まで生き延びる割合が大きく増加しています。

予防接種の普及、保健医療サービスの向上、栄養状態の改善などが、この平均寿命延伸に貢献しています。

(4) 女性の社会進出と人口抑制への効果の限界

女性の識字率は過去数十年で大きく向上し、都市部を中心に女性の社会進出が進んでいます。これにより出生率の低下が期待されましたが、その効果は都市部に偏っており、農村部や貧困層への浸透は限定的です。

女性の労働市場参加率は増えているものの、依然として家父長制の価値観や伝統的な家族観が根強く、女性が家庭内の役割を優先せざるを得ない状況も多いです。そのため、出生率低下への影響は都市部以外では限定的となっています。

(5) 社会保障制度の未整備

農村部や貧困層では、社会保障制度が十分に整備されていないため、子どもを多く持つことが老後の生活保障と考えられています。子どもが成長すれば家計の一助となり、親の面倒を見る存在でもあるため、家族計画が十分に進まず、多産傾向を支えています。

都市化や教育普及によってこの考えは徐々に変わりつつありますが、国全体としては依然根強い状況にあります。

(6) 宗教的・文化的要因

バングラデシュはイスラム教徒が国民の9割以上を占めるイスラム国家であり、宗教的価値観が強く人々の生活に影響を与えています。家族計画や避妊に対する保守的な考えが一定数存在し、人口抑制策の徹底を阻む要因にもなっています。

また、子どもを多く持つことが社会的ステータスと結びつく文化的側面もあり、特に農村部や伝統的社会ほどこの傾向が強いです。

4.都市化と人口増加の相互作用

都市化はバングラデシュの人口動態に大きな影響を及ぼしています。ダッカをはじめとする大都市は、経済成長の中心であり、地方からの移住者を大量に引き寄せています。仕事や教育、医療を求めて都市に集まる人々の流れが止まる気配はありません。

都市部での出生率は農村部より低いものの、移住による人口増加が著しく、ダッカのように超過密化が深刻な課題となっています。インフラの整備が人口増に追いつかず、交通渋滞、衛生問題、住宅不足が慢性的に発生しています。

また、都市部に集中する若年労働力は経済成長の原動力でもありますが、教育や職業訓練の機会が不足しているため、失業や不安定就業も多く、社会的問題を引き起こしています。

5.将来的な展望と課題

バングラデシュの人口は、国連などの予測によると今後数十年は緩やかに増加を続け、その後ピークを迎える可能性が指摘されています。しかし、人口増加そのものが止まったとしても、すでに膨大な人口規模を抱えているため、さまざまな社会的・経済的課題への対応が不可欠です。

特に以下の課題が浮上しています:

  • 都市インフラの整備不足
  • 若年人口への教育・雇用の確保
  • 女性の社会的地位向上と家族計画のさらなる普及
  • 環境問題と災害リスクへの対策

人口は国の重要な資源でもありますが、適切に管理されなければ経済発展の足かせにもなり得ます。バングラデシュは今後、若い労働力を活かしつつ、人口構造の変化に合わせた持続可能な社会構築が大きな課題となっています