バングラデシュの概要と技能実習人材送り出し国としての優位性

 

はじめに

 

世界の人材移動がますます活発化する現代、バングラデシュは日本の技能実習制度における新たな送り出し国として注目を集めています。その理由は、同国が有する地政学的、人口的、文化的、経済的な特徴にあります。本稿では、バングラデシュの基本的な国情を紹介しつつ、技能実習人材の送り出し国としての優位性を詳述します。特に以下の10のポイントを中心に、バングラデシュの現状と可能性を探ります。


1.インドと中国に挟まれ、ガンジス川の河口に広がったベンガル平野に位置する人口密集地であること

 

バングラデシュは南アジアに位置し、インドと中国という二大国に挟まれる地政学的なポジションを有しています。国土の大部分は、ガンジス川、ブラフマプトラ川、メグナ川などの大河が流れ込む肥沃なベンガル平野に広がっています。特にガンジス川の河口地域はデルタ地帯となっており、世界最大規模の三角州を形成しています。この地域は古来より農耕文化が栄え、人々の生活の基盤となってきました。

豊かな水資源と肥沃な土壌は農業に適する一方、洪水やサイクロンなどの自然災害にも度々見舞われ、国の発展に大きな影響を与えています。それでも、この地域に人々が密集して暮らすのは、農耕による生活の糧を得やすいことと、コミュニティを形成して助け合う文化が根付いているためです。バングラデシュ人の勤勉さ、粘り強さ、そして共同体意識は、こうした自然環境の中で培われてきた資質であり、技能実習制度における順応性の高さの背景となっています。


2.アジア4位となる1億8000万人の人口が広がっている事

 

2025年現在、バングラデシュの人口はおよそ18,000万人に達し、アジア全体で第4位の人口規模を誇っています。この数字は、インド、中国、インドネシアに次ぐ大きさであり、世界全体でも上位に位置します。

この膨大な人口は、同国の最大の資源とも言われています。特に15歳から34歳の若年層が全人口の約35%を占め、豊富な労働力の供給源となっています。一方、国内の経済が急速に発展する一方で、産業構造はまだ完全に多様化しておらず、農村部では十分な雇用が確保できない状況も続いています。このことが、海外就労への志向を強める大きな要因となっています。

技能実習制度の年齢要件に合致する層が多いことは、送り出し国としてのバングラデシュの大きな強みです。人口ボーナス期を迎えた同国において、海外での雇用のチャンスを求める若者は、今後ますます増加すると予測されます。


3.日本の北海道+東北の広さほどの面積しかない国であり人口密度が世界一であること

 

バングラデシュの国土面積は約147,570平方キロメートルで、日本の北海道と東北地方を合わせた程度の広さに相当します。この比較的小さな面積に、先述のとおり18,000万人もの人々が暮らしているため、人口密度は世界でも突出しています。現在の人口密度はおよそ1平方キロメートルあたり1,200人を超え、世界で最も高い水準です。

この人口密度の高さは、都市部と農村部の格差、住環境の過密、そして失業・不完全就業問題を生み出しています。結果として、多くの若者が国外での就労を志す傾向を強めています。国の面積の狭さと人口過密は、国内の経済吸収力を上回る人材供給を生み出し、海外派遣の大きな原動力となっているのです。


4.元々農業国であり、畑を淡々と耕して生活し、地元のコミュニティを大切にする民族であること

 

バングラデシュは歴史的に農業国として発展してきました。ベンガル平野の肥沃な大地は、稲作や野菜、果物の栽培に適しており、長らく農業が国民の主要な生業でした。人々は畑を淡々と耕し、収穫に感謝しながら生活するという素朴な暮らしを続けてきました。

農村部では家族や地元コミュニティとの結びつきが非常に強く、互いに助け合う文化が根付いています。この強い共同体意識は、技能実習制度における集団生活や協調性が求められる現場において、大きな利点となっています。忍耐強さ、真面目さ、礼儀正しさなども農耕文化を基盤とした国民性の表れであり、日本企業から高く評価される特質です。


5.元イギリスであり英語も話す民族であること

 

バングラデシュは1947年まで英領インド帝国の一部でした。この歴史的背景から、現在でも英語が広く通用する社会です。公用語はベンガル語ですが、教育制度の中で英語が必須科目となっており、ビジネスや公的機関、法律、教育の分野では英語が盛んに用いられています。

技能実習制度においても、基礎的な英語能力は日本語の習得に好影響を与えます。英語のアルファベット表記に慣れていることから、日本語学習も比較的スムーズに進みやすいとされています。また、海外就労者向けの研修においても、英語による指導が可能であることは、日本側にとっても受け入れやすい大きなポイントです。


6.インド人と近いDNAを持ち、平均知能指数は高く理数的能力も高い民族であること

 

バングラデシュ人は、民族的にはベンガル系を中心とし、歴史的・文化的にインド北部の人々と非常に近いDNAを共有しています。このため、身体的特徴や言語、宗教、食文化にも共通点が多く見られます。

また、平均知能指数(IQ)は世界平均を上回るとされ、特に数学や理科など理数系の学習能力が高いことが指摘されています。近年、国内の工科大学やポリテクニック校が拡充し、IT、機械、電気、建設分野など技能実習制度の対象分野において基礎的な技術を身につけた若者が増加しています。技能実習生として派遣された後も、技術習得が早く、即戦力化しやすい点はバングラデシュ人材の大きな強みです。


7.国がまだ貧しくアジア最貧国、最低賃金が1万円しかないこと

 

バングラデシュは近年、経済成長率が67%台と高水準を維持していますが、それでもアジアの中では依然として最貧国の一つと位置づけられています。2025年時点での最低賃金は月およそ10,000バングラデシュタカ、つまり約1万円程度に過ぎず、国内の生活水準はまだ低い状態です。

この低賃金構造が、海外での就労への強いインセンティブを生んでいます。日本での技能実習による給与は、現地賃金の5倍から10倍に相当することもあり、多くの若者にとって経済的に魅力的な選択肢となっています。この経済格差は、技能実習制度への応募意欲の高さを支える大きな要素です。


8.海外志向が高く1500万人が海外に出稼ぎに出ていること

 

現在、バングラデシュ人のおよそ1,500万人が世界各国で出稼ぎ労働に従事しています。特に中東諸国、マレーシア、シンガポールなどへの派遣が多く、建設、製造、家事労働、運輸など幅広い分野で活躍しています。

海外就労者が母国に送る送金額は、2024年度には約240億ドルに達し、GDP10%近くを占める国家経済の重要な柱となっています。このように海外就労が一般的な生計手段として確立しているため、バングラデシュ人は異国での生活や就労に高い順応性を持っています。技能実習制度に対しても理解が深く、周囲からの支持も厚いことは、送り出し国としての強みです。


9.日本への尊敬度が高く、日本で働ける事は夢であると思っている民族であること

 

バングラデシュでは、日本に対する好意と尊敬の念が非常に強いことで知られています。日本の戦後の経済復興、高度経済成長、技術力の高さ、勤勉さなどが大いに賞賛されており、多くの人々が「日本で働けることは夢」だと語ります。

特に日本製品への信頼は絶大で、「日本製」というだけで高品質の象徴とみなされています。このような親日感情は、技能実習制度への参加意欲を強く後押ししています。文化や礼儀を尊重する日本社会への憧れは、実習生の適応力やモチベーションの高さにもつながっており、日本企業にとっても非常に歓迎すべき要素です。


10.政府支援及びDJITGRAによる教育・啓蒙もあり、日本への留学や就職を目指し日本語を学習する若者が増えていること

 

バングラデシュ政府は、海外就労を国家戦略として位置づけており、送り出し機関の育成や法的枠組みの整備に積極的です。また、ダフォディル・ジャパンITDJIT)やGRAといった民間の教育機関も、日本語教育や日本の労働文化に関する啓蒙活動を精力的に行っています。

こうした取り組みの結果、日本語を学ぶ若者が急増しています。特に、日本語能力試験(JLPT)のN4N5レベルを目指す若者が多く、入国前に一定の日本語コミュニケーションが可能な人材が育ちつつあります。さらに、IT分野や介護分野、建設分野など、日本の技能実習制度に関連する専門教育も行われており、即戦力化が期待できる人材が次々と輩出されています。


まとめ

 

以上のように、バングラデシュは地政学的な位置、若年層の厚み、理数系に強い知能的素養、そして海外志向の強さという多面的な強みを有しています。経済的には未だ発展途上であるものの、海外就労を通じて生活向上を目指す強い動機を持つ若者たちが存在しており、日本への尊敬や親和性も非常に高い国民性が見受けられます。

政府や民間機関による教育と啓蒙の進展により、今後も日本語能力や職業技能を備えた人材が増えることは確実です。これらの要素を総合すると、バングラデシュは今後ますます技能実習人材の送り出し国としての存在感を高め、日本の労働市場において欠かせないパートナーとなると考えられます。